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◆ 2007年9月号 特集 ◆

NPO法人中部リサイクル運動市民の会による環境まちづくり

 使い捨て社会や環境破壊に危機感を抱いた有志が集まり、「できることから始めよう」と1980年にスタートし、名古屋でも長い歴史を誇るNPOのひとつと言える、中部リサイクル運動市民の会(以下「中部リサイクル」)。 地域に暮らす一人ひとりが主体となり、地域の環境問題を一つずつ解決していく「地域循環型市民社会」を目指し、リサイクルシステムの構築、企業や行政とのパートナーシップ、環境教育、エコ商品の開発・普及など、幅広い活動を行っている。 今回は、主要事業のひとつでもある、「リサイクルステーション」での資源回収活動から生まれた「陶磁器のリユース」を中心に、中部リサイクルの環境問題への取り組みを取材した。

◆ まだ使ってもらえる陶磁器は「ごみ」じゃない!

写真 陶磁器リユースイベント

 7月16日(祝)、名古屋市郊外で行われたある環境イベントで、「陶磁器のリユース」を呼びかけていたのは、中部リサイクルの職員、永田さん、高階さん、三日月さんと、インターンの吉田さんの4名。「これらはすべて、リサイクルステーションに資源ごみとして出された陶磁器です。まだ十分使えるものですので、欲しい方に無料で提供します」という彼らの呼びかけに、人だかりができる。どの陶磁器も、かつて「ごみ」だったとは思えないほど、状態が良いものばかりだ。  「リサイクルステーション」というのは、家庭から出る11品目の資源を1ヵ所でリサイクル用に回収する、中部リサイクルの資源回収拠点のことである。現在、名古屋市内を中心に44ヵ所で、定期的に開催している。陶磁器も、その回収品目の1つで、初めは割れたものを粉にしてリサイクルすることが目的だった。しかし、実際に回収を始めると、新品のものや、まだ十分使えるものがほとんどであることに気づいた。「これはもったいない」と、リユースを行う許可を行政に要請。本来は一般廃棄物の収集許可が必要だが、試験的にという条件で許可をもらい、2005年8月、この陶磁器のリユース活動を始めた。イベントなどでブースを出すと、毎回、とくに宣伝をしていなくても、あっという間に陶磁器は人の手に渡っていく。  行政の回収システムでは、陶磁器は不燃ごみとして埋め立て処分される。「物は一緒なのに、回収システムが違うだけで、リユース品になる」と永田さん。もらい手がいないだろうと思っていたものも、喜んでもらっていく人がいることもある。「ごみにされるよりも、使ってもらう方が食器にとっても嬉しいはず」と三日月さんも言う。

◆ 100人の市民リサイクラーに支えられて

写真 7/16(祝)の環境イベントにて。「陶磁器リユース」の呼びかけに人が群がる

 リサイクルステーションの運営は、市民リサイクラーと呼ばれる、市民による有償ボランティアが行っている。中部リサイクルの活動理念のひとつが、誰もが参加できる「システムと場づくり」。単に呼びかけや提案に終わるのではなく、市民が具体的・日常的に参加できることが大切だと考えている。このリサイクルステーションは、多くの市民が資源のリサイクルやリユースに実際に関わっている点で、まさにその目的に合った活動のひとつと言える。  ブースで提供されていた陶磁器も、リサイクルステーションで、市民リサイクラーが「リユース用に」と分別してくれたものだ。「現場の作業は大変だと思いますが、リサイクラーさんに支えられています」と、リサイクルステーション事業を担当している永田さん。学生時代、滞在先のニュージーランドで美しい自然に触れたことがきっかけで、環境に関わる仕事に関心を持ったという彼は、帰国後の就職活動で、当時(1999年)はまだ環境関連の企業や情報が少ない中、中部リサイクルの発起人である萩原喜之さんに出会った。以来、「環境」に対して具体的に行動できる中部リサイクルの仕事に、やりがいを感じていると言う。  一方、三日月さんは、職員になる前は市民リサイクラーとして、中部リサイクルに関わってきた。10年前、まだ名古屋市が瓶や缶を不燃ごみとして回収していた頃、子どもと一緒に家の近所で空き缶を拾っては、リサイクルステーションに出していた。ある日、「より主体的に活動しよう」と、自らが市民リサイクラーとなった。5年前からは職員として、リサイクルステーションやエコペーパーの事業を担当している。「リサイクルステーションの現場は、常連の方もいらっしゃって楽しいです。『リユースで使わせていただいてもよろしいですか』と、持ってきてくれた方に尋ねると、『そうしてもらうのが一番いいです』という返事が返ってきたりします」と嬉しそうに話す。

◆ パートナーシップ、環境教育・・・。様々な方法で環境まちづくり

写真 「不燃ごみ」とは思えない、陶器の数々

 「単なる資源回収拠点にならないように」と、10名の市民リサイクラーと毎月運営委員会を開き、そこで出される提案を、みんなで一つひとつ形にしながら進めてきたリサイクルステーション事業。いろいろな成果を生んできたこの事業も、中部リサイクルの数ある事業のひとつにすぎない。行政、企業、NPOという、違いを活かした協働で、社会に対してより大きな影響力を持つ活動が可能になるという考えのもと、中部リサイクルは、行政や企業とのパートナーシップ活動も行っている。例えば、植林活動、新聞古紙100%再生紙や生ごみ堆肥化促進剤などの環境配慮型商品の開発・普及もその例だ。職員の高階さんは、中部リサイクルとの出会いのきっかけが、中部リサイクルのエコ商品だったという一人。学生の頃に、自炊で出た生ごみをリサイクルしようと生ごみ処理用の容器と菌を購入した先が中部リサイクルだった。「生ごみが2週間ほどで良質の土になるんです」と、今でも生ごみのリサイクルを続けている。ごみの減量と同時に、農薬や化学肥料に頼らない安全な家庭菜園を楽しむこともできる。環境にも人間にもやさしいエコ商品だ。  また、環境教育も大切な事業のひとつ。行政・企業・学校などからの依頼で、環境学習プログラムや子ども向けの環境イベントを企画・運営している。リサイクルステーションが環境教育のフィールドとなることもあり、これまでにも、多くの小中学生がリサイクルステーションの現場を体験してきた。インターンの吉田さんも、説明会で聞いた中部リサイクルの環境教育の話に興味を持ち、インターン先として中部リサイクルを選んだと言う。  環境問題の継続的な改善に、教育は欠かせない。「学校での環境教育の違いが、子どもたちの環境に対する意識の違いに現れています」と、世代の違う二人のお子さんをお持ちの三日月さん。「小学生のときから学校で環境教育を受けている下の子は、環境への配慮が自然にできていると感じることが多いです。最初は複雑でできないと言われていた名古屋市のごみの分別と一緒で、慣れて、それが当たり前になれば、決してできないことはないと思います」。         

◆ 高まる環境意識。そして、リサイクルからリユースへ

写真 リサイクルステーションの様子

 学校、企業を含め、社会全体の環境意識がここ数年で随分高まったと、みなさん口をそろえて言う。「リサイクルステーションの会場を探す営業に行くと、以前に比べてすんなり会場を提供してくれるスーパーや企業が増えました。担当者の環境意識が高まってきているし、逆に向こうから依頼がくることもあります」と永田さん。「環境に関心がある人、ボランティア活動をしたいという人も増えてきているので、自分たちがそういう人たちに活動の場を提供できればいいです」。  「環境」といっても、対象は様々である。地球規模で進む環境破壊を食い止めるためには、まずは自分たちの地域を循環型社会にしていく必要があると中部リサイクルは考えている。「今の事業をしっかり固めていくと同時に、“リサイクル”よりもさらに環境にやさしい“リユース”に力を入れるなど、時代の変化に合わせて新たな活動を展開し、そして多くの地域に広げていきたい」と、今後の目標を話してくれた。         

写真 取材に応じてくれた、中部リサイクルのみなさん

■ 団体紹介
 【特定非営利活動法人 中部リサイクル運動市民の会】
  〒460-0014 名古屋市中区富士見町9番16号 有信ビル2F
  TEL:052-339-5541
  FAX:052-339-5651
E-mail:staff@es-net.jp
URL:http://www.es-net.jp/
※リサイクルステーションの会場については、ホームページをご覧ください。

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