2006年4月号 特集 
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脳卒中障害者の自立を目指す、特定非営利活動法人「ドリーム」の活動
脳卒中を発病し、リハビリを行いながらも後遺症に悩んでいた脳卒中障害者が、
「社会との接点」「生きがい」を求めて、
7年前に喫茶店「ドリーム」をオープンした。
脳卒中障害者が生き生きと活動している姿に励まされて徐々に仲間が加わり、
今ではNPO法人として、フェアトレードショップの経営や情報誌の発行など、
同じ病気に苦しむ人たちの生きがいづくりに取り組んでいる。
■生きがいを求めて、中途障害者が自ら動き出す
<喫茶の風景>コーヒーを煎れているのが、設立メンバーの一人、谷本さん
「自分のような中途障害者が、
退院後に生きがいを持って生きられる場所が欲しい」。

 ド
リーム設立者のひとり、丹羽信和さんは、脳梗塞で倒れて闘病生活を送るなかで、そんなことを考えるようになった。13年前、53歳のときに発病し、右半身麻痺になった。独立して始めた仕事も順調で、定期的に健康診断を受けて健康には気をつけていただけに、最初は自分の病気を受け入れることができず、精神的に不安定な時期が続いた。しかし家族に支えられてリハビリを続け、自分の足で歩けるようになってからは、料理、ワープロ、車の運転などにも挑戦。次第に自信を取り戻していった。言葉の障害などから仕事を再開することは諦めた丹羽さん。当時、親身に相談にのってくれていた生活支援員と将来のことをいろいろ話し合う中で、「自分以外にも、働きたくても働くことが難しく、新しい働き場所がない中高年中途障害の人たちが大勢いる」という意識を強くした。1994年、社会教育施設職員の協力を得て、「中高年中途障害者の生きがいづくり」を目標とする「向日葵くらぶ」を立ち上げ、障害者自らが主体となって活動する動きの中で、喫茶店を開く話が持ち上がった。

 この「向日葵くらぶ」で丹羽さんが出会った仲間の一人が、谷本愼吾さんだ。谷本さんは20年前、53歳のときに脳出血を発病。後遺症で、話すことも、文字を書くこともできなくなった。医者の「治る可能性がある」という言葉を信じて、毎日発声や筆記の練習をする一方で、「病気になった自分の姿を見られるのが嫌で、人に会うことを避けていた」という。そんな谷本さんの背中を押したのが、片手で車を運転し、障害者グループなどに積極的に参加していた丹羽さんの姿だった。「自分で自分を変えなければいけないという思いが常にあったので、外に出るきっかけになった」。そして谷本 さんも、喫茶店「ドリーム」の設立の仲間に加わった。
 NPOに関する勉強会を重ね、物品を寄付してくれる人やビルの改装を手伝ってくれる人など、多くの協力者にも恵まれ、1999年6月、丹羽さん、谷本さんを含む障害者スタッフ4名とボランティア10名によって、小さな喫茶店「ドリーム」が誕生した。
●一歩いっぽ」のタイトルもみんなで決めた ●絵などに生きがいを見つけた障害者の作品が毎回表紙を飾る
■たとえ売上げがゼロでも、続けてきたことに意味がある

喫茶「ドリーム」では、脳卒中障害者が日替わりでマスターやママを務める。当初、お客さんはほとんどなく、1日の売上げが、自分たちスタッフが飲んだコーヒー3杯分だけのときもあった。それでも「続けてきたことに意味がある」と谷本さん。口コミで次第にお客さんが増え、今では1日25〜30杯の注文が入る。同じビルの入居団体やスタッフの友人など、常連客が主だが、近所の人が来てくれるようになったり、近隣の企業から注文が入るなど、少しずつ地域に浸透してきた。宣伝するだけではなく、豆の種類、水の分量、豆の粗さなどにもこだわり、マスター全員でドリームの味を守っている。
 

マスターを務める障害者スタッフは現在14名。脳卒中障害者であることと、デイサービスとは違って「働く場」なので自分で働きに来られることの2つが条件だ。週2回マスターを務める星屋さんは、ドリームでの2年半を振り返り、「ドリームに来た当初は何もしゃべれなかったが、お客さんとの交流のおかげで、この1年でやっとしゃべれるようになった。身内とはツーカーですんでしまうけれど、ドリームではそうはいかない。仲間やお客さんのおかげで、知らず知らずに変わっていけた。今はコーヒーが美味しいと言ってもらえるのが嬉しい」と笑顔で話す。
■2/18(土)、東海高校中学のサタデープログラムで出張販売
■情報誌「一歩いっぽ」(年3回発行)

喫茶店に加え、ドリームは2003年に「ミニミニショップ」をオープンした。
喫茶店の隅で、フェアトレード商品や障害者の作品を販売している。ショップ担当スタッフの吉川さんは、ドリームで活動を始めて3年。商品管理や販売が主な仕事だ。半身麻痺の体でリハビリを続けながら、週2日働いている。喫茶店に比べてショップのスタッフは2名と少なく、抱える仕事も多い。それでも、「喫茶ではなく、ショップを目的に来てくれる人がいる」「刺繍が好きなので、いつか自分の刺繍を売るのが夢」と、嬉しそうに話してくれた。
 さらに2005年には、障害者スタッフが取材、執筆、編集し、脳卒中障害者の視点でさまざまな情報を発信する情報誌「一歩いっぽ」を創刊した
 脳卒中発病後に必要な情報、同じ病気に苦しむ人やその家族の役に立つ情報を提供しようと、ボランティアと障害者15名が週1、2回集まって、編集会議を開いている。編集メンバーの伊藤さんは、昨年5月に自立支援センターの紹介でドリームに来た。2年前に脳出血で倒れ、医者からはもうダメだと言われたものの、奇跡的に回復。「以前にも増して、周りに対して感謝の気持ちが持てるようになった」「同じ病気に苦しんでいる人の自立のお手伝いができたら」と、取材や営業を担当している。営業の際、「買ってください」とは一言も言わないのが伊藤さんのスタイルだ。「この情報誌の中身は私自身です」と、自分自身の話をただ聞いてもらうと、後から連絡をくれる人がいる。「神様からもらった命だから、自分だけ楽しむのではなく、自分の経験を多くの人に聞いてもらって役に立てれば嬉しい。今は倒れて良かったと思える」と、とても前向きだ。
 同じく編集メンバーの梅北さんも、ドリームに来て前向きになった人のひとり。「1年前はしゃべることもできなかったが、インタビューをしたり文章を書くことが、だんだん上手にできるようになってきた。発病から2年。始めはもう何もできないと思っていたけれど、努力して一歩一歩、時間をかけてやっていかないといけない」と話してくれた。
 
 
もっと地域に貢献する。それがドリームの目標
「ドリームの魅力は、アットホームなところ。そして、健常者が指示するのではなく、障害者自身が中心となっているところ」と言うのは、ドリームの職員の出水さん。2年前にドリームに初めて見学に来たとき、その雰囲気と考え方に「働く場所はここしかない」と惚れ込んだ。そんなドリームの目標はまだまだ先にある。これまで、喫茶の出張販売や、障害者向けのパソコン教室、脳卒中障害者が自らの体験や思いを語る講師派遣など、ドリームは活動の幅を広げてきた。昨年9月には、豊橋福祉情報展に、メンバー30名が参加。ドリームにとって初めての市外への出張で苦労もあったが、公共交通機関での移動や、地元の人との交流が、みんなの自信につながったという。「障害者が集まるだけではなく、地域の人ともっと交流して、地域に貢献したい」。そんな声もドリームから聞かれた。
 いろいろな症状を持つ、個性豊かな障害者スタッフが集まったドリーム。みんなが口をそろえて言うことは、「家の中にこもらないでなるべく外に出て、人と話すように心掛けることが大切」ということ。病気に苦しみながらも「これではいけない。自立しなければ」という葛藤があったからこそ、ちょっとしたきっかけで変わってこられたようだ。「そういうときに、相談相手や話を聞いてくれる人、自分の思いを話せるところがあったらいい」。それがドリームの原点だ。
みなさんも、一度ドリームに来て、コーヒーを飲みながらおしゃべりしてみてはいかがでしょうか。
特定非営利活動法人 ドリーム
名古屋市中村区名駅南1ー20ー11 NPOプラザなごや1F
TEL/FAX: 052ー586ー1159
E-mail:dream758@mail.goo.ne.jp
HP: http://plaza.rakuten.co.jp/npo1999dream/
ドリームの職員の二人。
ムードメーカーの小椋さん(左)と、しっかり者の出水さん(右)
★喫茶ドリーム 営業時間 12:00〜16:00
★ドリーム事務局 10:00〜18:00
 ※日曜・祝日休み
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