特集2002年12月号
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「田舎の廃校で、本来の福祉を取り戻したい。」 大自然に囲まれた障害者施設「いこまハウス」の取組み

町の80%を占めるという森林に取り囲まれ、近くにはアユの泳ぐ清流矢作川が流れる。美しい草花にはすぐ手が届き、リスなどの森の小動物に出あうことも珍しくない。三河地域きっての景勝地、愛知県旭町の廃校を利用して4年前の夏にオープンした「いこまハウス」、そして同じ旭町でゴルフ場の旧ロッジを利用して作られた「笹戸ハウス」。いずれも、障害をもつ人たち、その家族の願いを形にした憩いの場として、生活の場として、行政からの補助を一切受けずに運営されている。ありあまるほどの豊かな自然、のびのびとした時間と空間。都会の、あるいは制度の枠にはまった施設にはない、独自の取組みを取材した。


 かつての小学校の校舎を利用した「いこまハウス」は、深い山あいの地にひっそりとあった。「旭町立生駒小学校」と刻まれた石碑は、校門のところに今もしっかりと佇む。さらにグランド、プール、図書室、体育館まですべて元のまま。今の持ち主である「いこまハウス」の看板や表札はどこにも見当たらず、一見すると、ここが福祉施設などとは想像もできない風情だ。
「田舎の廃校を選んだのは、障害のある人たちがのびのび暮らせるから。大きな声を出しても文句は言われないし、好きなように走り回れる。田舎には、そういう人たちを受け容れてくれる懐の深さがあるんです。」
 そう語る「いこまハウス」責任者の山内貞さんは、この学校を借り受けることが決まった時、三ヵ月間学校に泊まり込み、校舎内の掃除やグランドの草取りにいそしむかたわら、かつての児童らが手がけたであろう手作りのパネル等をゴミ同然の状態から再生させ、一つひとつ壁に展示した。「学校は、町のシンボルですからね。その面影が消えたら淋しいでしょ。ここに詰まった思い出は、全部そのまま町の人のために残したかったんです」と、山内さん。
 「いこまハウス」は、今から4年前の平成10年夏にオープン。障害をもつ人を短期間あずかり家族を介護から一時的に開放する、いわゆるレスパイトサービスを提供してきた。会員となる利用者の家族が料金を支払うシステムで、行政からの補助金は一切なく、家族は決して低くない負担を強いられる。しかし、ほとんど宣伝もしなかった「いこまハウス」には、オープン当初にして予想をはるかに超える50人もの登録があった。山内さんは、その盛況ぶりに驚きを隠せなかった。
「こういう場所がほしいという親御さんたちの要望があって作ったわけなんですが、それにしても50人という数にはびっくりしました。最初は一日3〜4人の利用者を相手に、ぼちぼちのんびりやろうと考えていたわけですからね。」
 立ち上げた年には、登録者が80人を超えてしまい、既存サービスの枠組みでは救われない人たちの大勢いること、またその家族が抱える苦悩の根深さを改めて思い知った。

 

 

 

写真1
写真1
田舎の廃校を利用した「いこまハウス」は、
ノスタルジックな雰囲気が漂う。


写真2
清流矢作川沿いにそびえる「笹戸ハウス」。
すぐ近くには温泉が湧き出る。


写真3
生駒小学校の歴史と思い出を物語るパネルの数々。


写真4
校門には、「旭町立生駒小学校」と刻まれた石碑が残る。

boramimi
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